■ 感染症の死者数ランキング
順位 病名・死者数 説明
黒死病(ペスト)

死者:2億人

1347年~
1351年
人類絶滅の危機に近いほどの死亡者が出た。とりわけ中世ヨーロッパ社会を崩壊に導いたとされる。歴史上、人類に深刻な災禍をもたらしたパンデミック(世界的流行病)は少なくないが、なかでも世界的な広がりと深刻さにおいて群を抜いている。

1348年からはじまったヨーロッパでの大流行では、当時の人口の4分の1(都市では2分の1)、約2500万人が死亡した。 町中に死体が捨てられて、触った人たちも次々に感染する。一般市民に情報も届きにくい時代で、死者数だけでなく、人心に恐怖を与えたという意味でも影響は甚大だった。 その前後、中国、中東を含めた文明世界全体では約6000~7000万人の命が奪われたと推定されている。
天然痘(とう)ウイルス

死者:5600万人

1520年
天然痘は有史以来、数え切れないほどの人命を奪ってきた。3000年前のエジプト王のミイラにもアバタがある。ウイルスに感染すると、高熱と同時に全身に発疹(はっしん)が出て水疱(すいほう)になり、アバタを残す。患者の周囲の人、ほぼ全員に感染して約3割は死ぬ。200年前、英国の医師ジェンナーが種痘による予防法を発明、根絶の道が開けた。欧米や日本では前世紀から種痘が普及、1950年までに天然痘は消失した。

しかし、南米、アフリカ、中東、アジア大陸では1960年代半ばになっても、天然痘が流行、43カ国で年間2000万人の患者と400万人の死者が出ていた。

世界保健機関(WHO)は1976年、天然痘根絶本部を設け、各国の協力を得て50万人を動員して、天然痘封じ込め作戦を開始した。 その結果、1977年のソマリア人の患者を最後に全世界から天然痘が姿を消した。WHOは1980年、天然痘根絶を宣言した。
スペインかぜ

死者:
4000万人~
5000万人

1918年~
1919年
20世紀に入ると新型のインフルエンザが周期的に発生。1918年のスペインかぜでは全人類の約3割が感染し、死者は4000万人以上に及んだ。

1918(大正7)年から翌年にかけ世界的に猛威をふるった。

主要な感染の元は、米国と中国だとされる。 米国からは1918年、第一次大戦に参戦した米軍兵士により、フランス、イギリス、スペインなど欧州各国に蔓延(まんえん)した。アジアでは中国全土に広まった後、インドや日本などアジア各国に感染していった。世界中での死者は4000万人に上り、14世紀に欧州を襲ったペスト(黒死病)に匹敵するといわれた。

日本ではスペインで大流行したというので「スペイン風邪」と名づけられた。国内感染者は今回の新型インフルエンザの予測数に近い2300万人で、死者は38万人以上に上ったとされる。

日本人がいかに、この風邪を恐れたかは、志賀直哉の短編『流行感冒』に描かれている。十数年後にインフルエンザウイルスが発見されるまで、風邪の正体がわからなかったことが恐怖感をいっそう強めたのだ。
ペスト・東ローマ帝国での流行

死者:
3000万人~
5000万人

541年~
542年
エイズ

死者:
2500万人~
3500万人

1981年~
現在
1983年、最初にエイズウイルスを発見したフランス・パスツール研究所のL・モンタニエ博士はこのウイルスをLAV(リンパせん症ウイルス)と呼び、翌年に発見したアメリカ国立ガン研究所のR・ギャロ博士はHTLV-3(ヒトT細胞指向性ウイルス3型)と命名。現在はHIV(ヒト免疫不全ウイルス)という名前で統一されている。

エイズの蔓延は同時に、1960年代以降アメリカで進行した大胆な性開放に歯止めをかけることになった。そしてエイズの原因究明と治療薬(法)の開発に、文字通り官民が一体となって莫(ばく)大なエネルギーと経費をつぎ込むこととなった。1986年には当時の金で一億ドル(約210億円)が対策費として、またフランスでは20億フラン(約560億円)の予算が検査のために計上された。
ペスト・19世紀の中国とインドで流行

死者:1200万人

1855年
新型コロナウイルス
(別名:Covid19)

死者:700万人以上
(2024年6月時点)

2020年~
2024年
中国の武漢が発祥。

コロナウイルスは、過去に新種が登場し、脅威となった。2002年~2003年に流行したSARS(サーズ、重症急性呼吸器症候群)はアジアなどで8000人以上が感染した。SARSは発症すれば重症化し、患者をすぐに隔離することで、封じ込めに成功し、爆発的な感染拡大には至らなかった。 2012年には中東でMERS(マーズ、中東呼吸器症候群)が発生した。

新型コロナウイルスは感染が拡大しやすい特徴があった。感染しても発症しなかったり、発症後も多くがかぜの症状ですんだりするため、感染に気づきにくい。発症直後からウイルスをうつしやすく、無症状でもウイルスをうつした。
ペスト・ローマ帝国の疫病

死者:500万人

165年~
180年
ペスト・17世紀の大疫病

死者:300万人

1600年
10 アジアかぜ

死者:110万人

1957年~
1958年
ランキング集計:Hitomi AI
■ 20世紀以降の主な感染症
病名 概要
スペインかぜ

1918年~1919年
世界的流行で2000万~5000万人が死亡。日本でも38万人の死者が出た
エボラ出血熱

1976年~
アフリカで確認され、繰り返し流行。2014年にも再燃し、1万人以上が死亡
重症急性呼吸器症候群
(SARS)


2002年~2003年
香港を中心に流行し、世界で8000人以上が感染、約800人が死亡
中東呼吸器症候群
(MERS)


2012年~
サウジアラビアで初めて感染を確認。中東諸国を中心に広がり、800人以上が死亡
新型コロナウイルス

2019年~
中国で肺炎が流行し、世界中に感染が拡大。感染者は世界で100万人を超えた

感染症の歴史

感染症の歴史は古く、紀元前の時代から人々を苦しめてきた。エジプトで発掘されたミイラには天然痘の痕が残る。ペストは6世紀、ビザンチン帝国(東ローマ帝国)で大流行。14世紀には「黒死病」として欧州全域で猛威をふるい、全人口の3分の1もが死亡したとされる。

また、産業革命で都市の人口が増えると、病原菌が空気感染する結核が流行した。天然痘やインフルエンザのように、細菌とは別の病原体(ウイルス)による感染症も人類を苦しめてきた。

西欧世界が経験した疫病の歴史をおおまかにたどってみると、14~17世紀のペスト(黒死病)、コロンブスのアメリカ航行によってもたらされた15世紀の梅毒、17~19世紀にかけての天然痘、腸チフス、コレラ、19~20世紀の結核、インフルエンザ、20世紀のエイズ等があげられます。

20世紀後半からは、エボラ出血熱やラッサ熱、新型肺炎(SARS)など新たな感染症が相次いで現れた。これらのウイルスに対する備えは脆弱(ぜいじゃく)だった。

病原菌やウイルスは文明の興亡にも影響を与えた。16世紀にメキシコのアステカ帝国、ペルーのインカ帝国が滅んだのは、スペイン人が感染症を持ち込み、それらに免疫のない現地の人々が倒れたことも原因の一つだといわれる。感染症が歴史に果たした役割は、ウィリアム・マクニールの「疫病と世界史」、ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」などに詳しい。

感染症を専門とする理化学研究所の加藤茂孝氏によると、先進国では1950年あたりを境に死因が劇的に変わったという。20世紀の前半は肺炎、胃腸炎、結核が3大死因だった。いずれも、おもに病原菌やウイルスによる病気だ。だが、20世紀後半になると、がん、脳血管障害、心臓疾患が取って代わる。

感染症による死者が減った大きな理由は抗生物質の発見だ。1929年に青カビから見つかったペニシリンが第2次世界大戦中に実用化され、その後もさまざまな抗生物質が登場した。

いまも、抗生物質の効かない耐性菌や、高齢化にともなう肺炎などの問題がある。そもそも、ウイルス感染症には抗生物質がきかない。新たな感染症も現れる。闘いは今後も続く。