インフルエンザの基礎知識

冷え込みも一層厳しくなり、冬将軍の訪れを感じさせるこの季節、聞こえてくるのが、インフルエンザの話題です。「今年のインフルエンザはキツいらしいよ」なんて台詞も、時候の挨拶のように毎年の定番になっていますね。
ところでこのインフルエンザ、昔から馴染みのある病名のひとつだけに、あんまり深く考えたことはありませんでしたが、ただの風邪とはどう違うのでしょうか。2009年には米国を中心に豚インフルエンザの感染が拡大し、その脅威に世界が震撼しました。「パンデミック(世界的大流行)」なんて言葉が連日ニュースを賑わせたのをまだ覚えている人も多いのでは?
今回は、知っているようで知らないインフルエンザの基礎知識をみなさんにご紹介します。


■ただの風邪とは比べられないインフルエンザの恐怖


インフルエンザには、季節性インフルエンザと新型インフルエンザの2つがあります。前述した豚インフルエンザは、H1N1亜型の新型インフルエンザのひとつです。一方、毎年、冬になると私たちが警戒するのは、前者の季節性インフルエンザ。その主な症状には、38℃以上の高熱、頭痛、せき、鼻水、筋肉・関節痛といったものがあります。
これだけ聞くと、「風邪とどう違うの?」と首を傾げられそうですが、その大きな特徴は何と言っても強力な伝染力。インフルエンザウイルスの伝染力は、あらゆるウイルスの中でも最も高いと言われるほどで、主にくしゃみやせきによって空気中に排泄され、それを健康な人が鼻や口から吸いこむことで感染します。子どもの頃、クラスでインフルエンザが流行すると、あわや学級閉鎖なんてこともあったのではないでしょうか。
これは、ただの風邪にはない、インフルエンザの強い伝染力の表れと言えます。 また、インフルエンザは、免疫のもととなる抗原性の違いによってA型、B型、C型の3つに分けられます。私たちが一般的に言うインフルエンザとはA型インフルエンザであることが多く、全体のインフルエンザの約58%をこのA型インフルエンザが占めています。よく「今年のインフルエンザの流行は…」と報道されていますが、なぜインフルエンザが毎年のように予防接種が必要なのかというと、一口にインフルエンザと言っても実に様々な種類があり、その種類ごとに異なるワクチンが必要だからなのです。
A型インフルエンザを例に挙げてみても、ウイルスの表面たんぱく質であるヘマグルチニンとノイラミニターゼの抗原の違いによって、合計で144種類もの亜型があります。これらは毎年決まった組み合わせのものが流行するわけではないので、去年インフルエンザに罹患した人もその免疫が今年のインフルエンザに通用するとは限りません。これがインフルエンザの恐怖のひとつです。
また、インフルエンザを発症したら注意したいのが合併症。特に警戒しなければならないのが、乳幼児と高齢者です。もともとウイルスへの暴露歴の少ない乳幼児はインフルエンザにかかりやすく、中にはインフルエンザ脳症を発症し、麻痺や意識障害、最悪の場合、死に至るケースもあります。
毎年、インフルエンザ脳症の患者は国内だけで200〜300人ほど報告されていますから、決して他人事とは言えません。また、体力の低下した高齢者もインフルエンザから肺炎を伴い、高熱、せきが続き、死亡する例が頻発しています。発症頻度の高い乳幼児や高齢者がいるご家庭は、決して侮ることなく、万全なインフルエンザ予防対策を行うことが大事です。

■どうしてインフルエンザは冬に流行るの?

先ほど申し上げた通り季節性インフルエンザの流行は、冬がピークです。どうして冬になるとインフルエンザが流行るのか。これには実は深い理由があります。
第一に、空気の乾燥。そもそもインフルエンザとは呼吸器感染症であり、そのウイルスは鼻や喉などの上気道で増殖します。これらがくしゃみやせきと共に飛沫となって体外に放出されることにより、他人の上気道へ到達し、感染が広がっていくのです。湿度が高い状態だと、空気中に飛び出たウイルスは水滴のまま地面に落下します。地面に落下したウイルスは活動が抑制されるので、それほど問題はありません。一方、空気が乾燥していると、空気中に放出された段階ですぐに水分が蒸発し、ウイルスは地面に落ちることなく、そのまま長時間浮遊することになります。そのため、別の人間のもとへ運ばれやすくなり、結果的に感染を促す一因となるのです。また、乾燥により喉の粘膜の血管が収縮し、繊毛の動きが鈍くなるため、対ウイルスの防御機能そのものが低下することも、感染拡大の原因のひとつです。
第二に、温度の低下。インフルエンザウイルスが増殖するのに最適な温度は、約33℃と言われています。鼻や喉の表面の上皮の温度は、冬場は冷気にさらされるため、体温よりも低い33℃前後に下がります。寒冷な気候によって、図らずもウイルスにとって増殖しやすい環境が体内でつくられてしまっているのです。
そして第三が、日照時間の短さです。紫外線が皮膚にあたることによって、体内でビタミンDが生成されることはご存じでしょうか。日が短くなり太陽光線を浴びる量が減ることで、体内のビタミンDもおのずと減少します。実はこのビタミンDは、ウイルス感染を抑える抗菌ペプチドのインフルエンザウイルスに対する抗ウイルス作用を促す働きがあります。体内のビタミンDの減少は、インフルエンザウイルスに対する抵抗力の低下をもたらしてしまうのです。 この3つのことから、冬はインフルエンザウイルスが増殖するのに適した条件が揃った季節だと言えます。そのため、冬になるとインフルエンザ感染が一気に拡大し、多くの人たちがその症状に苦しめられてしまうことになるのです。
インフルエンザ 推移

■所得別に意欲の差が見られるワクチン接種

では、インフルエンザを防ぐために私たちは何をすればいいのでしょうか。最も効果的な予防対策は、ワクチンの接種です。毎年、インフルエンザの種類によって様々なワクチンが供給されていますが、一体どのような過程で製造されているのでしょうか。
日本には国立感染症研究所という施設があります。ここで、過去3年分の流行状況をもとに翌年の流行予想が立てられています。さらに、WHO(世界保健機構)でも世界各地でどのようなインフルエンザが流行しているかを分析し、北半球用と南半球用にそれぞれ最適な推奨株を決定します。
国立感染研究所はWHOの推奨株と自国のデータに基づき、その年のワクチン株を選定。最終的には、厚生労働省がその検討内容をもとに決定を下し、公布に至ります。
厚生労働省では、ワクチン接種による効果が出現するまでに2週間程度を要することから、毎年12月中旬までに予防接種を終えることを呼びかけています。しかし、先日、総合医療メディア会社の株式会社QLifeが発表した調査によると、調査対象の54%が「今年は予防接種をしない」と回答しているとのこと。
毎年、多くの被害をもたらしているインフルエンザですが、国民の危機意識は決して高いとは言えないようです。予防接種には大人1回で3000〜3500円の費用が必要となり、これを「高い」ととらえている生活者が60.2%いることがわかりました。
また、調査の結果、これらの予防行動に関する意識の違いは、世帯所得によって差があることも浮き彫りになっています。長引く不況により、あちこちで格差が叫ばれている日本ですが、病気に関する予防意識にも今や「格差社会」が広がっているのかもしれません。

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